メガネやコンタクトなしでは日常生活が難しい近視の人が、裸眼生活を実現できるのがICL手術です。メガネやコンタクトを使用することが面倒だったり、災害時に裸眼だと不安を感じることから、ICL手術を検討する人が増えています。しかし、目にメスを入れることや見えている状態で手術を行うことは、多くの人が不安や恐怖を感じます。また、「手術を受けて失明したらどうしよう」と不安になり、手術を受けるか迷う人も多いです。
どんな手術にもリスクがありますが、ICL手術はその中でも安全性が高い手術になります。
眼科看護師としてICL患者さんへ関わってきた経験をもとに、手術への不安や恐怖を少しでも軽くできるよう実際の手術の流れについてわかりやすく説明します。
ICL手術が「怖い」と感じるのは普通です
デリケートな器官である目の手術に不安や恐怖を感じない人はいません。ICL手術は基本的に局所麻酔で行います。意識がない状態で行う全身麻酔とは異なり、局所麻酔とはメスを入れる部分にのみ麻酔をするので手術中は意識があり患者さんの恐怖をさらに強くさせてしまいます。
よくある不安(痛み・失明・合併症…)
ICL手術を受ける患者さんが抱える不安はどこからくるのでしょうか?
まず考えられるのは手術による「痛み」への不安です。目は非常にデリケートな器官であり、眼球にメスを入れるという未知の体験に対して不安を感じます。誰でも皮膚を傷つけたことはありますが、眼球に傷をつけた経験のある人は少ないですよね。今まで経験したことのない痛みに対する恐怖が不安を強くさせます。
実際のICL手術では、約3mm程度の小さい切開創のみで行います。手術前に点眼薬による麻酔をするため、切開の際はほとんど痛みを感じません。実際の痛みについて手術後の患者さんへ聞くと「ぐっと押された感じ」「消毒のときに少し染みた」と話す人が多いです。
次に不安を感じる原因となるのは「術後の合併症」です。ICL手術は安全性が高いと言われていますが、どのような手術にも必ずリスクが伴います。
術後に起こる可能性のある合併症には、以下のようなものがあります。
術後合併症 | 内容 |
感染症 | ・傷口から感染し炎症を起こす・6000眼に1例ほどの割合 |
白内障 | ・目の中が白く濁り視力が低下する病気・最近は中心部に穴があるレンズを使用することが多く、発生率は0.49%と非常に低い |
ハロー・グレア | ・夜間に光を見るとまぶしく感じたり、光の周りに輪が見える現象・発生頻度は不明・時間の経過とともに気にならなくなる |
眼精疲労 | ・挿入するレンズの度数が強い場合は矯正し過ぎの状態となり、目が疲れやすくなる・術前の入念な検査で予防・再手術でレンズの交換が可能なため、適切な度数に調整可能 |
緑内障 | ・術前から緑内障を指摘されている方は注意が必要・手術後、一時的に目の圧力が上がることがあるが、長期的には影響は少ないとされている |
これらの合併症を聞くと、手術に対する不安や恐怖がさらに強くなりますね。しかし、手術のリスクをしっかりと理解し、事前に準備をしたり術後のケアを適切に行うことで、合併症の発生を最小限にすることができます。手術前後に抗生物質の点眼薬を実施し、手術後3日間は目に水が入らないように注意することで感染予防につながります。また、手術後の異常を早期に発見するために、定期的に眼科を受診し検診を受けましょう。
手術に対する“怖さ”の正体とは?
ICL手術への不安や怖さは、経験したことのない未知の体験や情報不足から生じます。事前に正しい情報を得て、どのように手術が進むのか、どんなリスクがあるかを把握することで不安を軽減できます。不安を医師や看護師へ伝え、手術前に医療者と十分なコミュニケーションを取ることで恐怖を和らげることができるでしょう。
ICL手術当日の流れを看護師目線で解説
ここからは実際の手術当日の流れを説明していきます。
受付から手術直前まで(どんな準備をするの?)
病院に到着し受付を済ませたら、医師が目の診察を行い、問題がなければ準備を開始します。
〈手術室へ入るまでに実施する準備〉
- 瞳孔(黒目)を開くための点眼を15分おきに実施
点眼薬は手術室へ入るまで実施します。
- 体温、血圧、脈拍を測定
- 手術衣に着替えキャップをかぶる
メガネは手術直前までつけていくことが可能です。
飲食に制限はないので、直前まで水分を摂取できます。
手術中の様子(何が見える?痛い?)
手術室へ入ったら、点眼薬の麻酔を実施し、目の中を消毒していきます。消毒薬を使用して目を洗浄するため、この作業で“染みる“と感じる方がいます。
その後は下の写真のような目を開いた状態にする器具を装着します。
目を開いた状態で行う手術では、手術中に自分の目で様子が見えるため、恐怖や不安がさらに強くなるのではないかと感じるかもしれません。しかし、実際は瞳孔(黒目)を開く点眼薬の影響で、視界がかなりぼんやりしています。さらに手術中は強いライトを当てるので、メスや針がはっきり見えることはありません。
眼球を切開する際に生じる痛みは、点眼薬による麻酔のおかげでほとんど感じることはないでしょう。患者さんによっては、レンズを挿入する際に「ぐっと押された感じがした」と話す方もいらっしゃいます。
手術にかかる時間は、消毒などの準備も含めて約20〜30分ほどです。
手術後〜帰宅まで(ぼんやりする?看護師はどう対応する?)
手術直後は、瞳孔を開く点眼薬の影響で視界がぼんやりしています。患者さんによっては手術が終わった直後から「裸眼で見える」と自覚される方もいらっしゃいます。
体温、血圧、脈拍を測定し、30分ほど安静にした後、医師が診察を行います。診察で問題がないことを確認し、帰宅となります。
手術後3日間は、目を守るために写真のような保護メガネを着用します。この期間は、ほこりや風から目を守ることが大切になります。その後は、寝ている間に無意識に目をこすってしまうことがあるため、1〜2週間ほど就寝時に保護メガネを着けると安心です。
怖さを和らげるためにできること
前日〜当日に心がけたいこと
手術の前日は、不安な気持ちからインターネットで情報を検索したくなりますよね。しかし長時間のパソコンやスマホの利用は、目に負担がかかるのでおすすめしません。パソコンやスマホなど電子機器の利用を控え、なるべく目を休ませるように意識しましょう。
また、前日のアルコール摂取や喫煙は、手術中の出血リスクを高めたり、回復を遅らせる原因になるため控えるようにしましょう。
看護師がよく伝える「リラックスのコツ」
看護師は、患者さんが手術前に緊張していることを十分に理解しています。緊張して血圧が上がったり、落ち着かなくなる方が多いです。緊張しているときは呼吸が浅くなりやすいので、ゆっくり呼吸をするようアドバイスしています。手術までの待ち時間に、お気に入りの曲やリラックスできる音楽を聴いて、気分を落ち着けるのもよい方法ですね。
実際に手術を受けた患者さんの声
実際に手術を終えた患者さんから次のような声が聞かれました。
- 痛みはなかったが、ぐっと押される感じがあった
- 瞳孔を開く目薬をしてからずっとまぶしい
- 手術中のライトがかなりまぶしかった
- 手術が終わってすぐ裸眼で見えて感動している
手術後は「思っていたよりも手術による痛みを感じなかった」と話す方が多かったです。痛みよりもまぶしさを感じたり、レンズを挿入する際の押される感覚が気になったという方が目立ちました。ICL手術を経験した患者さんの声を知ることで、手術へのイメージがしやすくなり、未知のことへの不安が軽くなりますね。
最後に|不安があっても大丈夫。看護師として伝えたいこと
ICL手術に対して不安や恐怖を感じることは、決して珍しいことではありません。以前、眼科の医師がICL手術を受けた際、緊張のためかかなり血圧が上がっていました。「痛みが少ないこと」や「安全性が高い手術であること」を理解している眼科医師でも、実際の手術を目の前にすると緊張するものです。
無理に不安を押し込めず、自分の気持ちを医師や看護師に相談することで不安が軽減されることがあります。医療者は、患者さんが安心して手術を受けられるようサポートするために存在しています。不安なことや気になることがあれば、遠慮せずに気持ちを伝えてくださいね。
コメント